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小学校受験の「いくつの音」の問題が、音の種類を聞くことはあり得るのか。

前回の続きです。

 

小学校受験の「言語」の問題が、「文字」ではなく「音」について聞く理由については、

前回のブログ記事『小学校受験の言葉の問題は、なぜ「文字の数」ではなく「音の数」を答えるのか。』をご覧ください。

 

 

小学校受験の設問は、「何文字ですか?」ではなく「いくつの音でできていますか?」で聞く理由は理解しました。

 

そこで、また別の興味深いご質問をいただきました。

 

「音の数」ではなく、「音の種類」で答えなければならない問題は、ありえないですか?

 

例えば「にんじん」という言葉を見ると、「に」と「ん」と「じ」の3種類の文字でできているし、

「しんぶんし」は、「し」と「ん」と「ぶ」の3種類の文字でできています。

 

「いくつの音」という質問が、「何種類の音」というふうにも解釈される可能性はないでしょうか。

あるいは、もう一歩進んで「何種類の音でできていますか?」という設問はあり得ないでしょうか。

 

 

このような視点は、小学校受験の「当たり前」にとらわれていると、なかなか生まれづらいです。

 

ところが、そうした狭い「常識」とらわれることが学習の幅を狭め、

お決まりのパターン学習に陥ってしまうことも、あるかもしれません。

 

国立小の先生がたが、

こうしたパターンの裏側から出題をしてみよう、と考えらえる可能性は、

過去の出題例を考えると、充分に考えられます。

 

 

ご家庭でペーパー学習に取り組む中でも、

「こういう出題は考えられないか?」という視点も、あわせて持ってみてください。

そして、よかったらぜひ、お教室にもそうしたご意見をおよせいただけたらありがたいです。

 

ひとつひとつの「可能性」について検証をしていくことができるからです。

 

 

ということで、

「音の種類」について出題があるかの検証をしてみましょう。

 

 

結論から言うと、「何種類の音ですか?」と言う出題は、万が一にもありえません。

 

「何種類の文字ですか」なら設問として無しではないのですが、

「何種類の音ですか」だと、これは小学校受験どころか、小中高でも習わないものの範疇になってしまうからです。

 

 

先ほどの「にんじん」をみてみましょう。

ひとつ目の「ん」(に「ん」じん)は「硬口蓋鼻音(こうこうがいびおん)」と言って、舌を口の天井にピッタリつけて発音する「ん」、

ふたつ目の「ん」(にんじ「ん」)は、「口蓋垂鼻音(こうがいすいびおん)」と言って、舌の付け根を喉の入り口(いわゆる「のどちんこ」)にピッタリつけて発音する「ん」です。

 

また「しんぶんし」のひとつ目の「ん」(し「ん」ぶんし)は、口を閉じて出す「両唇鼻音(りょうしんびおん)」、

ふたつ目の「ん」(しんぶ「ん」し)は、「にんじん」のひとつ目と同じ「硬口蓋鼻音」のようです。

 

これは、国際的な音声学上の分類であり、

私も、少しだけ調べた程度の知識をもとに、このブログを書いています。

 

ただ、「音声学」というものにおいては、「ん」の発音はいくつかの種類に分類されている、ということがわかりました。

 

 

いっぽう、日本語話者にとっては、「ん」は1種類の音(音素)として認識されています。

 

そうであるならば、同じひらがな「ん」で表される音は、「1種類の音」とみなして出題することもできるのかもしれませんが、

もし、「音の種類」について出題をした場合、

ここまで書いてきたような「音声学上の違い」をもとに疑問や批判、議論が噴出するかもしれません。

 

 

そうすると、「そもそも1音1文字で扱っている『音』とはいったい何を指しているのか」という疑問が湧いてきます。

 

「いくつの音」で数えられる「音」は、

音韻論における「モーラ」のことを指すようです。

 

「モーラ」とは、皆様にとっても、耳慣れない言葉ではないでしょうか。

私も、この「1音1文字」を教えるようになって、初めて勉強しました。

 

言いかえると、

日本語を発話するときの「拍」の数を「音の数」としているようです。

(等間隔で叩く手の音に合わせて、思いついた名詞を言ってみてください。……「とら」「パンダ」「にんじん」「かぶとむし」「スキップ」「しゃもじ」「ボール」ーーこのときの「拍数」が「音の数」となるようです。)

 

 

興味を持たれた方にとっては、詳しく学んでみると面白いところではあるのですが、

どうも、この「1音1文字」の単元から派生する音韻論や音声学、というのは、

小学校受験におけるお勉強からすると、本質から外れた議論であるような気がしてなりません。

 

 

いろいろ風呂敷を広げてみましたが、ここで、小学校受験期の学習の「本質」に立ち返ってみましょう。

 

小学校受験期のお勉強。

 

それは、あくまでも「就学後の学習をスムーズに進めるための土台づくり」であるはずです。

 

小学校の先生たちからしても、

学校での授業に興味を持って、主体的に参加することができるだけの基礎を身につけていることを望んでいるでしょう。

 

小学校受験期のお勉強で目指してほしいことは、

専門的な知識を入れることではありません。

 

もちろん、先の音韻論や音声学についても、

お子さまの興味や疑問に応じて、適切な形に噛み砕いて伝えていくことが、学びにつながることはあるでしょう。

 

ですが、それを全員が理解した状態で小学生になってくださいね、というのは、

小学校が出したいメッセージでは、ないような気がします。

 

 

「1音1文字」の単元のねらいは、

あくまでも「文字の学習に対する興味・関心を養うこと」にあります。

 

 

「すでにひらがな・カタカナをマスターしているのに、あえて『音』で聞くなんて、ややこしいなぁ。」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

(小さい「ゃ」「ゅ」「ょ」がつく「拗音」は、ひらがな2文字で1音という例外があるからです。)

 

そんな、就学準備が着実に進んでいるお子さまに対しては、

「1音1文字」の単元は、「短歌・俳句の準備学習」だと捉えていただくのが、

就学準備学習としての受験勉強としては、ちょうど良いのではないかと思います。

(短歌・俳句の音の数え方は、「いくつの音」の数え方と完全に一致しています。)

 

 

出題者の意図にも沿いつつ、お子さまにとっても最適な学習を追求することが重要。

 

小学校受験に向けたお勉強については、

各単元を「小学生の学習の準備」として捉えていくと、

出題者の意図にも沿うお勉強が進められるはずです。

 

学校の先生がたとしても、

お子さまに学びの深淵をのぞかせて困惑させるような出題がしたいわけではなく、

「きちんと、お話を聞いて答えを考えられるか」という基本的な姿勢や思考力を見ていきたいのではないか、と予測しています。

 

学習法や、設問の解釈に迷った際は、

出題の意味を考えるという基本に立ちかえることが、

理解を深めるポイントかもしれません。

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