小学校受験期に、小学校の学習を先取りすることは必要か。
小学校受験のペーパー学習の形式と、小学校以降の学習形式のバランスは、どうするのが適正か?
国立小受験(および都立小受験)で課されるペーパー課題においては、
「小学校で学習する内容の先取りを要求するものであってはならない」という制約から、
ペーパー問題の解答に、数字や文字を書かせるもの、式を使った計算を要求するものは出題されません。
(これは、私立小受験であっても基本となる「不文律」であるように思われます。)
そうすると、
「小学校受験の合格のため」には、
読み書きや計算の学習というのは「不要」ということになります。
そればかりか、
文章を読むことで問題に答える学習だけに取り組んでいたら、
設問が読み上げられる形式の小学校受験のペーパー問題は、「不慣れなもの」となってしまうでしょう。
また、答えを数字で書くことが一般となっている場合、
「答えの数だけ○を書いてください」という指示を聞き逃し、数字で解答する、という場合もありえます。
(受験の対策を行っていない年長さんに、受験フォーマットの数の課題を出題すると、ごく少数ながら無視できない人数が「答えを数字で書く」ことによって不正解となる事実も目の当たりにしています。)
文字、数字などを使用する小学生からの学習が、
小学校受験に対して役に立たないばかりか、
「むしろマイナスなのでは」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、小学校受験におけるペーパー学習と、小学生以降の学習では、
上記のように、解答の仕方やルールが異なる部分もあります。
小学校で習う計算を使って考えるよりも、そうでない方が解答のスピード、精度が上がる場合がままあります。
(これは、中学受験の算数における「つるかめ算」の問題を、中学数学の「連立方程式」を使って解こうとした方がややこしくなる場合がある、というような場合と似ている構図です。)
小学校受験に取り組むうちは、小学生以降の(先取り)学習に取り組まない方が良いのでしょうか。
この問いに対する答えを考えていきましょう。
まず、小学校受験に取り組む、といった前提で考える場合に、
ペーパー学習において取りうるスタンスは、大きく以下の3つに分かれると思います。
①小学校受験が終わるまでは、小学校受験スタイルのペーパー学習以外は一切おこなわない
②小学校受験スタイルのペーパー学習をメインにしつつ、これまでの基礎学習は「維持」を目指して取り組む
③基本軸は、あくまでも小学生以降の学習形式としつつ、小学校受験のペーパーにも適応することを目指す。
いずれのスタンスを取る場合でも、メリットとデメリットがあるのも事実です。
想定されるデメリットを許容しつつ、どのメリットに価値を置くかは、
各ご家庭の(小学校受験後も含めた)教育方針によります。
それぞれのスタンスについて、得られるメリットと、考えられるデメリットをまとめてみます。
①小学校受験本番まで、小学校受験スタイルのペーパー学習に集中する場合のメリット、デメリット。
「とにかく合格!」を考えるなら、
このスタンス以外には考えられません。
受験で課される課題を想定した学習に、使える資源を全て投入していくのが、
小学校受験におけるパフォーマンスを最大化させるための秘訣です。
常に、目の前の1戦1戦に全力投球。
これは、勝つための秘訣でもあるはずです。
圧倒的なペーパー解答力を身につけて、
ペーパーを「得意科目」にしていくことは、
お教室や、模試や受験本番でも、
大きな自信を持って取り組むことができるはずです。
もし、小学校受験以外の幼児教室でもお勉強をしているのであれば、
小学校受験までは、「いったん休会」とすることになります。
もちろん、受験が終わってから、もう一度その学習を再開することも、可能でしょう。
小学校受験の指導をするお教室としては、この学習方法をオススメするところが大多数ではないでしょうか。
合格を目指して、お教室に通っていただいているのですから、
このアドバイスは、まったくもって当然であり、「合格」という目的に対する最適なアドバイスです。
この学習方法のデメリットは、「小学校形式の学習については、むしろ非受験組に対して遅れを取る可能性がある」ということです。
「……いやいや、合格してしまえば、クラスの生徒は全員が『受験組』な訳だから問題ないでしょう?」
その通りです。
ですから、受験勉強をスタートするまでの、あるいは、受験から入学までの3〜4ヶ月の学習の差が、明確に出る、ということを留意しておく必要があります。
小学校受験の本番まで、全精力を傾けてお勉強にコミットしたけど、
受験後は、マイペースでゆるゆるやらせれば良い、
と考えていると、
入学後に、学習に対する「苦手意識」を持つことになるかもしれません。
国立小でいうと、
例えば筑波小の授業は、「基本を理解できていることを前提に掘り下げた」学習である部分も多そうです。
「学習内容を、より深掘りした授業が展開される」ということは、
裏を返せば、「基本的な部分は、公立の小学校よりもテンポ良く進む」ということです。
教育実習生による授業の時間が多く実施される学芸大附属の小学校でも、
各単元の進度、深度にはバラツキが生じます。
「教科書レベルの学習は、学校まかせにせず、自力で積み上げていく姿勢」が、
国立小での一歩すすんだ学びを受け取っていくためには大切だ、ということになります。
小学校受験の形式のペーパー学習に集中する場合は特に、
小学校受験は「ゴール」ではなく、あくまでも「スタート」でしかないということ、
そして、受験に向けて本腰を入れた時と同じ感覚、基準値で、
小学校入学までの4ヶ月弱で、就学準備学習を完全に「ものにして」いく、という決意が必要になります。
小学校受験のペーパーが「得意」となったお子さまであれば、
その基準値でお勉強を進めれば、
4ヶ月もあれば、小学生の入学準備を整えることは可能なはずです。
②基礎学習を維持しつつ小学校受験のペーパー学習に取り組むメリットとデメリット
これまでに、文字や数、計算についての基礎学習に取り組んできた場合、
小学校受験に取り組む中でも、ときおり、こうした小学校形式の学習に取り組みつつ、
小学校受験の学習を進めていく、ということもできます。
これまで取り組んできた形式の学習における「できる」という自信をキープしつつ、
あわせて、受験形式のペーパー学習を積み重ねていく、という方法です。
この方法のメリットは、
小学生になった後の家庭学習の習慣を、小学校受験期から身につけていくことが可能である、という点です。
小学校受験が終わった後に、
パターンが違う学習に取り組むことで、
急に、お勉強が「苦手」「嫌い」となることもあります。
小学校以降の学習の形式にも、いくらか慣れておくことで、
小学校受験後の学習にも、スムーズに着手していくことが可能です。
デメリットとしては、
どのくらいを受験用の学習、どのくらいを就学準備学習に振り分ければ良いかという
「学習のバランスを考えるのに苦労をする」という点です。
これは、ご家庭の中であらかじめルールを作っておけばクリアできる部分です。
例えば、小学校受験までは、
「基礎学習系の教材は1日1ページ(5分程度)だけにする」などとすれば、
大きな問題にはならないでしょう。
そして、受験校が明確に定まってくる9月、10月以降から、
いったん、志望校向けの小学校受験フォーマットの学習に集中する、という形式でも良いと思います。
受験以外のお教室について、
一時的にお休みするかどうかについては、
受験教室とのかけ持ちを「負担に感じるかどうか」で判断すれば良いでしょう。
例えば、お子さまが、
これまでに通っていたお教室でのお勉強や、受験形式ではない学習の時間を「楽しい」と感じていて、
むしろその時間が、有効な息抜きになる、といった状況なら、
あえてお教室の休会をする必要はない、とお伝えしています。
(遊び感覚で、お勉強が積み上がっていくのであれば、これは本当に素晴らしいことです。)
反対に、他のお教室やお習いごとを続けていくことが、
親子ともに、時間的にも体力的にも大変だな、と感じるようであれば、
これはいったんお休みをすることも賢明な選択だと言えるでしょう。
小学校受験期にも維持しておきたい、あるいは身につけたい「基礎学力」とは?
これまで、複数年にわたり小学校受験期のお子さまを指導させていただき、
また、受験後のお子さまたちの様子も見させていただいてきている中で、
小学校受験期の年長さんでも、最低限ここまでは身につけておきたい、という基礎学力があります。
小学校受験後にも、着実に学習を積み重ねていくことを考えると、
それは、
・ひらがな、カタカナについて、文章がスラスラと読め、単語を書くことができる
・(3桁程度、少なくとも100までの)数字の読み、書きができる
の2点であると考えています。
それ以外の、小学生の準備学習は、
小学校受験フォーマットの学習で進めることが可能です。
例えば、10までの数が「いくつといくつに分かれるか」という数の構成については、受験のペーパーを使いながらでも学習できます。
(ただ、ペーパーに解答する際に、そういった意識を持っておくことは必要です。)
小学校受験のペーパー学習を、就学準備も想定しつつ取り組んでいくための視点については、
お教室でそれぞれの単元に取り組む際にも、あわせてお伝えしていきます。
③小学生以降の学習の先取りを進めつつ、小学校受験のペーパー学習にも対応していこうとする際のメリットとデメリット
わが子は、これまでも、小学生での学習の先取りをしてきた。
これまでつけてきた学力を、小学校受験期において失いたくない、という方もいらっしゃるかもしれません。
あくまでも、先取り学習を進めつつ、
身につけた学力で、年長さん向けの小学校受験の課題も制していこう。
この考えのもと、小学校受験のペーパー課題に対応していくのは、
実際のところ、なかなか難しいかもしれません。
小学校の学習を先取りしていくことは、
木で言うと、幹や枝、果実のようなものだとイメージできます。
例えば
「かけざんの九九が言える」
「3桁÷2桁の割り算ができる」
はては「微積ができる」まで、
問題が与えられて、それに正解できたとしたら、「できた」と言う感覚にもなります。
(その単元について理解できている・できていないの判断もわかりやすいです。)
ところが、
こうした先取り学習ができることと、
取り組んでいる学習の学年レベルの学力があることとは、
イコールではありません。
いくら、先取り学習ができるようになっているからといって、
それが、「小学校受験のペーパー課題に、無理なく取り組める思考力、理解力が身についている」ことを意味するわけではないかもしれない、と言うことには、注意が必要です。
「小学3年生の計算ができるのに、年長さん向けの受験問題がわからない」ということに、
親子ともに、うろたえることとなるかもしれません。
特に、小学校受験のペーパー課題は、
計算問題での出題が出ないぶん、
言葉による数のやり取りをイメージできる必要があります。
これは、与えられた計算をこなすのとは、全く違う力です。
そして、この力は、
小学校からの算数学習の理解を積み重ねていく上で、非常に重要な力でもあります。
小学校受験で問われるペーパー課題は、
いわば、「木の根っこの部分の学習」のようなものです。
もし、小学校受験に取り組むと決めたのであれば、
先取り学習を進めるのは、
「お子さまがやりたくて仕方がない状態である」場合を除いて、
過剰に進めることは必要ありません。
(これは小学校受験以降の学習においてもそうですが、
先取り学習については、せいぜい、2学年相当の先取り学習ができていればもう充分で、それ以上を進める代わりに、思考力を伸ばす課題に取り組む方が、学習の効果としては適しているというのが私見です。)
小学校受験に取り組むのであれば、
実際の受験で出題される形式のペーパー課題を「できる」レベルまで持っていくことを目指すことの優先度は高まります。
小学校受験における学習よりも、小学校での先取り学習を進めていきたい、といった状態であるならば、
あえて「小学校受験をしない」で、「年長時から中学受験を見据えた学習をする」といった決断をするのも、ひとつの選択肢だと思います。
(これは、中学受験をスキップして、高校受験・大学受験を想定して小学生の時点から英語、数学の学習を進める、ということと、戦略的に共通しています。)
どのような学習戦略をとるとしても、願いや目指すところは共通しているはずです。
「年長さんの時期に、どのような問題に取り組むか?」については、
ご家庭の教育に関する目標や、方針によるところが大きいです。
ただし、どの学び方をする場合も、
小学校受験を「する」という選択も、反対に「しない」という選択をする場合でも、
就学前に、ご家庭での学びのリズムや環境を確立させることにこそ、大きな価値があります。
「わが子の、健やかな学び・伸び」を願って、取り組むお勉強の時間であるわけですから、
無理や無茶を強いるのではなく、
楽しみながら、小さな「できる」「できた」を積み重ねていくことを大切にしていってほしいです。
小さな変化や成長をつかまえながら、お勉強を進めていくのは、
非常に繊細な取り組みでもあります。
今日もコツコツ、お勉強を進めてまいりましょう。
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