【過去問探求】筑波小2017年Aグループ図形問題

筑波大学附属小学校 ペーパー過去問についてご質問をいただきました
筑波大学附属小学校の図形問題は、難易度の高めの問題を素早く解いていく必要があります。
そのためには、繰り返しの過去問演習が必要不可欠です。
素早く、かつ正確に解答をしていこうとする中で、
「どのように解答していくのが良いのだろうか」
と疑問に思われる保護者の皆様も少なくないことでしょう。
今回は、そんな筑波小の過去問の中から、
ご質問をいただいた
【2017年度 男女Aグループ】
の問題を取り上げて、効果的な解答方法についてご紹介していきます。
○2017年度 男女Aグループ「重ね図形」
左上のお部屋が練習問題です。透明な紙に書かれたマスのなかに書かれた形を、太い線のところで折って真ん中に重ねます。真ん中のマスの中では、○はどのようになるでしょうか。黒いマスが重なると○は見えなくなります。真ん中のお部屋の中に見える○だけを赤のクーピーで書いてください。練習問題が終わったら、横に進んで解いていってください。

筑波小のペーパーの図形問題では、最初に1問、練習問題をもとにやり方の説明をされてから、解答をしていくことになります。
今回の問題も、練習問題を題材に、少しだけ丁寧に説明をしていきます。

まず、左側のマスを縦の線のところで折って重ねます。
すると、真ん中の列の下2つのところが黒いマスで隠されるので、○が見えません。

次に、右側のマスを折って重ねていきます。
一番上の段と、下の段の右と左が隠れて○が見えなくなります。

両側のマスを折り重ねた後の真ん中のマスの状況は、このようになります。
真ん中の段の左側と右側だけ、○が見えています。

なので、答えは、真ん中の段の左と右に、赤い○を書くのが正解です。
実際の過去問演習では、お子さまが問題のルールを理解できるまで、少し丁寧に説明をして、
理解をしてから解答を始めるようにしましょう。
(本番では、上記ほど丁寧な説明はないかもしれませんが、過去問演習の段階から「本番仕様」を意識しすぎてしまうと、「よくわからないまま手を動かす2〜3分間」の練習をすることになってしまい、学習効率も良くありません。)
それでは、基本のルールについて理解できたところで、
実際の解き方を見ていきましょう。
解法1 説明どおりに考えていった場合のスタンダードな解法
この問題構成であれば、練習の後は「横」に進むのが正解のような気がしますが、
今回は、練習問題の下の問題をもとに、解き方について考えていきます。
まずは、先ほどの説明どおり「左側を折って」「右側を折る」の順番に解いていく方法です。

まずは、左側の形を追ったときに、黒いマスがどこにいくかを考えます。
「近くは近く・遠くは遠く」をもとに考えると、左側の赤く囲った黒マスは、真ん中のバツ×印のマスのところに重なります。
(この折り重ねのルールが今ひとつ理解できていない場合は、過去問演習の前に、「重ね図形」の単元別問題演習を重ねてください。)

続いて、右側の青枠で囲った黒マスがどのように重なるかを考えて、×を書きます。
(説明のため色を分けて区別しましたが、実際は解答に使う赤クーピー1色で印をつけていくことになります。)

最後に、×印が書かれなかったところに○を書いていけば完成です。
このやり方で解くのが、説明どおりの基本的なやり方です。
?【疑問】 解答スペースに書き込みをしていいのか?
ここで気がかりなのは、
「解答スペースに、○以外の印(×)を書いても良いのだろうか」
という点です。
×を書かないまでも、「、(点)」や「✔︎(チェック)」などを解答スペースに書くことについて、不安に思う保護者の方も少なくないのではないでしょうか。
書き込みそれ自体がNGとは言えないものの、手間と見栄えを考えたら避けたいところ
実際に、ペーパー問題がどのように採点されているかは不明のため、
「解答スペースに別の記号が書き込まれている」ことが即・不正解となるかは分かりません。
しかし、解答スペース内に書き込みをすること自体、
・余計な印を書くのに時間がかかる
・解答の見栄えを損なう
・万が一、印の書き間違いをしてしまった場合に正解を考えづらくなる
などの理由から、あまりオススメできません。
結論、
「書かずに効率よく正解できるのであれば、それに越したことはない」
と言えます。
そこで、「印を書くことなく」より効率的に正解を書いていける方法をご紹介します。
以下は、私・藤田が初見で解答した際に採った方法です。
解法2 隠れるところを「指で隠す」ことによって記入マスを絞り込む方法
この方法は、左のマスを一気に重ねるのではなく、
段ごとに、左右を順番に重ねいく方法で考えています。
まずは、1段目だけを見て考えます。

左側は、「近く」だけが黒マスです。
そこで、「近く(左側)」のマスだけを、指(この場合は左手の中指がベスト)で隠します。
(中指の理由は、左端のマスのため、右側の2マスのどちらかをを人差し指で抑える可能性があるからです。)
次に、右側を見ます。

こちらも「近く」だけが黒マスです。
そこで、「近く(右側)」のマスも、指(今回は左手人差し指)で隠します。
左右のマスが指で隠されたので、「真ん中」だけ○を書けば良い、ということがわかりました。

指を離して、1段目の真ん中に○を書きます。
これで、1段目が完了です。
次に、2段目です。

左側は「遠く(右のマス)」を指で押さえる。

右側も「遠く(左のマス」を隠すので、

やはり、真ん中だけに○を書けば良いとわかりました。
最後に、1番下の段です。

左側が、「真ん中」で、右側が「遠く(左のマス)」となります。
(この際の、先に「真ん中」を押さえる指は、中指か人差し指、好みの方で良いでしょう。私は人差し指を優先的に使いますが、仮に中指で押さえていた場合でも、右側の「遠く」を中指で押さえるために指を差し替えるだけで良いです。)
空いている、「右のマス」に○を書けば完成です。

説明の画像の枚数は多くなっていますが、
ひとつひとつ、黒マスに印をつけていくやり方と比べると、
解答速度は倍増し、解答にかかる時間は半減するはずです。
解法2(補足) 左側の時点で2箇所の黒マスがある場合は
例えば、先ほどの問題のすぐ下の問題の1段目のように、
「左側に黒マスが2つある場合」を考えてみます。
こういったときは、どうするのがいいでしょうか?
「真ん中」と「遠く」を指で隠して考えたら良いのでしょうか?

それよりも良い方法が、
「唯一の黒マスがないマス(今回は「近く(左側)」のマス)の上にすぐにクーピーをおいて、右側を検証する」
というやり方です。
どうしてこれができるかというと、
すでに、左のマスの時点で
「○を書くとしても左端のマスに書くだけ」(逆に、真ん中と右のマスに書く可能性は無い)
ということが判っているからです。
左のマスの上にクーピーを置いた上で、右のマスを見ます。
右側に黒マスがないので、クーピーを置いたマスに○を書けば良い、ということがわかりました。
そして、その下の段については、左側のマスに黒マスがありません。

そこで、あとは単純に右側のマスだけを見て「真ん中」だけに○を書けば良いです。

一番下の段は、左側のマスから「遠く(右端)」を指で押さえ、右側のマスの「近く」も同じマスであることを確認したら
「右以外」の2マスに○をつけると完成です。
いちどに考えるマスが3マスだけなら、2マスを同時に考える必要がなくなる。
ここからの内容は、理解できなくても演習の際には差し支えありませんが、いちおう補足で記しておきます。
解法2のやり方では、
横並びの3つのマスのうち、どのマスに○を書くかを考えます。
この解法の場合、
「〇〇と△△」といった、2つの情報を同時に記憶して作業をする必要がありません。
意識をすれば良いのは、「最大で1マスだけ」となります。
どういうことでしょうか。
具体的に説明をしていきます。
3つの横並びのマスについて、○を書くマスを「○」、黒マスに隠されて○を書かないマスを「ー」で示すことにします。
すると、○を書くパターンは全部で8パターンあるのですが、
その全てについて、最大で1つのマスだけを意識すれば解答できるということになります。
全ての例について見ていきましょう。
・○○○:「全部」
・○○ー:「右以外」
・○ー○:「真ん中以外」
・ー○○:「左以外」
・○ーー:「左」
・ー○ー:「真ん中」
・ーー○:「右」
・ーーー:「全部なし」
例えば、2つ目の「○○ー:右以外」を、「左と真ん中」と言うこともできます。
ですが、実際に解答をしていこうとすると、「右以外」に比べて「左と真ん中」の方が地味に時間がかかることに気がつくはずです。
一回の思考だけで考えたら、そこまでの違いはないかもしれません。
ところが、連続で複数の問題に取り組む中では、この微妙なワーキングメモリの消耗が、その後の解答の体力をじわじわと削ってきます。
(ぜひ、お父さま、お母さまもストップウォッチを片手に、本気でタイムアタックしてみてください。お子さまの制限時間の半分くらいを目安にチャレンジすると、お子さまたちがどのくらいのことにチャレンジしているかを感じられるかと思います。)
あくまでも私の体感でしかありませんが、
「より早く、よりラクに」を追求しようとしたら、
「左と真ん中」を「右以外」と読みかえることは、そこそこ有効です。
また、この視点自体が、後に学ぶことになる算数・数学の「集合」や「割合」の理解にもつながっていますね。
(例:5枚のカードから4枚選ぶ時の場合の数や確率は、選ばない1枚について考えるのと同じ)
もし、年長にして、こうした論理・理屈を理解できるとしたら、お子さまの思考力はかなり高いでしょう。
どうも理解することが難しいようであれば、この読み替えは無理に理解させようとはせず、丁寧に指で押さえるやり方でやっていっても良いです。
しかし、こうした視点に触れておくことが、後の学習をも、自然に、難なくやりこなしていけるための土台になります。
この問題ひとつをとっても、筑波小の図形問題は、小学校受験期だけに有効な特殊技能を鍛えているのではなく、後の学習の土台を育んでいける良問でもあるということがわかります。
小学校受験期に難しいペーパー学習を解けることについて「地頭が良い」などと言われますが、それを「地頭」と呼ぶのであれば、その地頭の正体は、後の学校教育で学習する論理的な思考を獲得していることによるものだ、と言えるでしょう。
このやり方で解答を進めると、
おり重ねる重ね図形の基礎が理解できて素早く作業できるという前提さえ整っていれば、
「2分以内に完答」ということも、現実的な目標になってきます。
解法3(おまけ) さらに難しい読み替えができた場合にできる別解
以下は、「問題の性質についてあらためて考えてみることでわかる」ような法則を使っています。
そのため、多くのお子さまにとっては、本番での実用性はゼロです。
もし、初見で、説明を聞いただけで以下の読み替えができるお子さまがいたとするならば、
それこそまさしく「驚異的な地頭の持ち主」と言えるかもしれません。
ただ、「こんなふうに考えることもできるんだ」と、問題の探求の一環として(理屈を理解した上で)チャレンジしてみる、という経験を積んでおくのも面白いとは思います。
(実際に、反転の問題はその後にも出題されていますから、その理屈を理解しようとすることは、新たな出題形式を理解する一助にくらいはなるかもしれません。)
この「解法3」を使うことができる根拠は、以下の順番で考えられています。
・左側のマスも、右側のマスも「横に折って真ん中のマスに重なっている」
↓
・つまり、左右どちら側のマスも「横に反転した状態で重なっている」
↓
・つまり、「左右2つのマスを重ねた後に反転」させても、答えはおなじになる
この理屈をもとに、
「右側のマスを左側のマスにそのまま重ねた後で、左のマスをおり重ねる」
という手順で答えを書いていきます。

左下の問題でやってみましょう。

右の青枠で囲った黒マスを、左のマスに移していきます。
マスを全て塗ると無駄な時間がかかるので、斜線を引くことで黒マスが重なる場所を示していきます。
ここで、左のマスの中で黒マスが無く、○が見えるマスの位置を反転させて、真ん中のマスの中に○を書いていきます。

ひとつひとつの○を「近くは近く・遠くは遠く」で書き写していくレベルだと、このやり方の効果はそこまで感じられないかもしれません。
しかし、全体の形を反転して重ねられるようになっていたら、このやり方は上記の「解法2」よりも、より早く正解を書いていけるやり方のように感じます。
(試しに私が解いてみたところ、「解法3」で完答するための時間は、「解答2」の6割弱まで短縮できました。何よりも、正解の全体像の掴みやすさが圧倒的に違います。)
ただ、この発想をすぐに思いつくのはなかなか難しいでしょうから、
総合的には、本番で一番使い勝手が良いのは「解答2」だと考えています。
「全体ではなく部分で考える」
「筆記具を持っていない反対の手(指)を解答作業に動員する」
といったコツは、今回の問題に限らず、他の問題を解く上でも活用できます。
ぜひ、演習の際の参考にしてみてください。